一言に絵本といっても、様々なジャンルのものがあります。こどもだけでなく、おとなだって楽しめる。私が気になる一冊は、これ。「どんどんどんどん」(片山健 作 / えほんのもり)。子育て中のお母さん、特に、昼も夜も赤ちゃんのお世話で大変なお母さんに読んでもらいたい絵本です。
“あるひ あるひ ひとりのこどもが どんどん どんどん ゆきました”から始まるこのお話は、最初から最後まで、パンツ(おむつ?)一張のこどもが脇目もふらずに歩き続ける、ただそれだけのお話です。大地に土煙をたて、ジャングルで動物達をけちらし、ゴジラのように街を混乱に陥れながら、どんどん進むだけ。
その見事なまでの強引さには、誰も口出し・止め立てすることなどできないのです。そう、理屈など一切通じない、赤ちゃんという、あの恐るべき生命力にあふれた存在に皆が右往左往させられるのと同じように。
その後、どんどん進んで、こどもはいったいどこへ行ったのか?それは最後のページを開くまでのお楽しみですが、あまりの意外さに「ナンジャソリャー!」とつっこまずにはおれません。こどもの勢いに巻き込まれ、引きずられ、スッポーンと投げ飛ばされたような読後感。でも、どこか気持ちいい。「赤ちゃんって思い通りにいかないもんさ、ありのまんまに、どんどん、どんどん、大きくおなり!」そんなふうに思えるお話。
子育てに翻弄されるお母さんに、カラッとした救いを与えてくれる絵本なのです。私も、どうせなら育児中に出会いたかったなー。
1971年兵庫県生まれ。京都女子大学文学部英文学科卒。
2013年 白泉社 第2回MOE絵本グランプリ受賞「おいぬさま」
2014年 第7回MOE絵本屋さん大賞新人賞受賞「おいぬさま」
絵を観ることが大好きでしたが、子育て中に思い立って描き始め、今に至ります。日々の生活に追われる中でも、アイデアの引き出しには案外いろんなものが貯まっていくのかもしれません。「私って、こんな絵を描くヒトだったんだ~」と、意外な自分を発見できるのも、楽しみのひとつです。少しずつですが、表現の世界を広げ、それをみなさまにご覧いただければ幸いです。